スリジエの花詞
「お待たせいたしました、お嬢様。夕食にしましょう」


ぼんやりとしていたら、大好きな匂いが鼻をくすぐった。振り返れば、エプロンを外した伊尾が私に手を差し出している。

その手を取ってテーブルへと向かえば、私の好物がたくさん並んでいた。

紅茶のシフォンケーキ、パンプキンスープ、チェダーチーズが乗っているサラダ。そして、ビーフシチューに焼き立てのバケット。

お誕生日でもないのに私の好物であふれている理由なんて、一つしか思いつかない。

あと少しで、私の傍を離れるからだ。

さいごの思い出にでもするのだろう。


席についた私は、伊尾が作ったビーフシチューをスプーンで一口掬い、口に運んだ。

月に二度は食べているものなのに、懐かしくてたまらなくなったのは、目の前に腰を下ろした伊尾のせいだ。

伊尾が、泣きそうな顔で私を見るから。


「…食べないの? 伊尾」


「いただきますよ」


そう言ったくせに、伊尾は食べなかった。
頬杖をつきながら、私を見つめている。
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