ワケあり王子のオトし方
「……いっ、」


直後、消毒液が傷口に染みて、思わず声を漏らしてしまった。


「…ごめん」


消毒をしていた男が、心配そうな面立ちで涙目になった私を見上げる。


「ううん、私の方こそごめんね。こんなことをさせてしまって…」


「いや、ぶつかった俺のせいだし。気にするなよ」


そう言って、即座に私から視線を外し、ガーゼを取りに立ち上がった男へと私は微笑んだ。


「やさしいね、篠倉(しのくら)くん」


「…ふつうだろ」


彼は先ほど私とぶつかってしまった男子生徒である、篠倉くんだ。

王子こと西園寺の野郎には少々劣るが、癖のある黒髪と長身が印象的な美形男子である。


「透真(とうま)、優しくしてる?」


「たぶん」


「多分じゃ駄目だよ、並木さんは女の子だから」


ね? と笑いかけてきた西園寺に、私は笑顔を返したけれど。

表情筋がいつものように動いてくれなくて、ひきつった笑顔を返したんじゃないかとハラハラした。


(……ていうか、これよこれ。この展開、何なの?)


そう、今目の前に広がっている光景こそ、どうしてこうなったのかと叫びたい理由だ。
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