俺がこんなに好きなのは、お前だけ。


猛烈にその場から逃げ出したくなった。

いつもは大志くんのほうから誘ってくれるから、私から誘うのは、迷惑だったかもしれない。



「いいよ」



だけど、大志くんはそう言った。
そしてそれまで話していたクラスメイトに「じゃあ、ごめん。俺行くわ」と笑顔で告げた。


かばんを持って立ち上がった大志くんを見上げる。背が、高い。と、何度も感じたことをまた考えた。


こそこそと話している「ちょっとあのふたり、ラブラブすぎない?」とのクラスメイトの声は、私の耳にも届いた。


恥ずかしくなって、俯いて、そのあと教室を早足で私から出た。


廊下を歩いていると、チラチラとこちらを見る目がいくつもある。人気者のとなりは、どうしても視線を集めてしまう。



「……大志くんってさ」

「ん?」

「恋が……嫌い?」



唐突すぎる質問だとは自分でもわかっていた。でもどうしても聞きたかった。

すると大志くんは「そうだな」と頷いた。



「嫌いだな」

「理由とかあるの?」

「……べつに」



そっけない返答。そのあとは私も黙る。自分から聞いておきながら、なんと切り返したらいいのかわからず困ってしまった。


言いたく、ないのかな……。

それとも本当に理由がないのだろうか?


下駄箱でローファーに履き替えて、外へ出る。夏の刺すような日差しから、すこし柔らかみを帯びた太陽の明かり。


最近、朝と夜はすこし冷え込むようになってきた。



「……大志くんって、女の子とキスとかハグとかしたいと思ったりする?」

「はあ?」



いきなりなに言ってんだ、お前。

そう言いたげな顔で、大志くんは片方の眉毛の端を吊り上げた。


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