俺がこんなに好きなのは、お前だけ。


チラッと、一瞬だけ美夜ちゃんと目が合う。



「……新しい彼女?」

「べつに、そんなんじゃねぇーよ……」



──ズキッ。


胸が大きく軋んだ。痛む。自分でもわかっていることなのに。間違ったことを言われたわけじゃないのに。


やっぱり、私の心は大志くんの手のなかだ。
喜ぶのも、悲しむのも、大志くんの言葉ひとつでどうにでもなる。



「……行こう」

「うん」



声をかけられて、頷いた。
歩き出した大志くんのあとを身体を小さくして歩く。


美夜ちゃんを見ると、静かに大量の大粒の涙を流していた。白い綺麗な肌、頬はすこしだけ赤く染まっている。



「ねえ、大志くん……」



呼びかけても、大志くんはただ前だけを向いたままだ。



「今の子、だれ……?」



私の声が聞こえていないのかもしれない。
すこし早歩きをして、大志くんの前に出て、顔を見た。


ぼうっとしている大志くんの目は虚ろ。どこを見ているのかわからない。



「大志くん!!」

「……!ご、ごめん……なに?」

「今の子、大志くんの知り合いなの?」

「あー……」



言葉を濁す彼。はっきり言ってほしいのに。


──「佐野大志には、忘れられない元カノがいるらしい」


忘れていたはずの噂を、私はなぜかこのタイミングで思い出していた。
以前この噂について追求したときの大志くんの表情は、先ほど彼女と対峙したときと同じだった。



「もしかして昔の彼女だったりする……?」

「…………」



黙ったまま、そのままなにも言わない大志くん。しばらく見つめていると、観念したように軽く頷いて見せた。


……やっぱり、そうなんだ。


< 115 / 143 >

この作品をシェア

pagetop