俺がこんなに好きなのは、お前だけ。
チラッと、一瞬だけ美夜ちゃんと目が合う。
「……新しい彼女?」
「べつに、そんなんじゃねぇーよ……」
──ズキッ。
胸が大きく軋んだ。痛む。自分でもわかっていることなのに。間違ったことを言われたわけじゃないのに。
やっぱり、私の心は大志くんの手のなかだ。
喜ぶのも、悲しむのも、大志くんの言葉ひとつでどうにでもなる。
「……行こう」
「うん」
声をかけられて、頷いた。
歩き出した大志くんのあとを身体を小さくして歩く。
美夜ちゃんを見ると、静かに大量の大粒の涙を流していた。白い綺麗な肌、頬はすこしだけ赤く染まっている。
「ねえ、大志くん……」
呼びかけても、大志くんはただ前だけを向いたままだ。
「今の子、だれ……?」
私の声が聞こえていないのかもしれない。
すこし早歩きをして、大志くんの前に出て、顔を見た。
ぼうっとしている大志くんの目は虚ろ。どこを見ているのかわからない。
「大志くん!!」
「……!ご、ごめん……なに?」
「今の子、大志くんの知り合いなの?」
「あー……」
言葉を濁す彼。はっきり言ってほしいのに。
──「佐野大志には、忘れられない元カノがいるらしい」
忘れていたはずの噂を、私はなぜかこのタイミングで思い出していた。
以前この噂について追求したときの大志くんの表情は、先ほど彼女と対峙したときと同じだった。
「もしかして昔の彼女だったりする……?」
「…………」
黙ったまま、そのままなにも言わない大志くん。しばらく見つめていると、観念したように軽く頷いて見せた。
……やっぱり、そうなんだ。