俺がこんなに好きなのは、お前だけ。


ムカついて、大股で教室のなかに入るとわざとらしく「お、は、よ、う!」と席に座ったばかりの佐野大志に挨拶をした。



「……そんな大声で言わなくても聞こえるっつの」

「あんたが無視するからでしょーが」

「俺ら挨拶するほど仲良かったっけ?」



きー!やっぱりムカつくなぁ!その態度!

なにか言い返さないと気が済まないんですかね、あなたは。


ぷいっと顔を背けて席に着いた。そしたら近づいて来た結衣羽が「またどうしたの、今日は」と半笑いで聞いてきた。



「べつに!」

「イライラしないの」

「イライラなんてしてないよ」



してるけど。させてるのは佐野大志だから、苦情はぜひとも佐野大志へ言っていただきたい。


頬杖をついて、佐野大志に視線を向ける。登校してものの数秒で彼の周りは人だらけになる。


──「佐野大志には忘れられない人がいる」


頭の片隅にある噂。忘れられないほどの恋をしている人が近くにいる。興味しか湧かない。なのになんでよりにもよってあいつなんだろう。


周りはすぐに次の恋へいく人ばかりだ。


忘れられない恋をしている人を他に知らない。


まあ佐野大志の噂も本当かどうかわからないけれど……。



***



放課後になって帰ろうと支度をしていると、数学担当の井口先生が「小田さん、課題やった?」とわざわざ教室にやってきた。


その言葉を聞いて最初はピンと来なかったのだが、そういえば私だけ数学の課題をやり忘れていた案件があったことを思い出した。


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