俺がこんなに好きなのは、お前だけ。
「今日中に終わらせて提出してね」
「はい……」
井口先生はにこやかに笑って、教室から出て行った。一部始終を見ていた結衣羽が「どんまい」と私の肩を叩いて笑った。
やり忘れていた私が悪いんだけど、どうして放課後になって言いにくるかな?
もう少し早く言ってくれれば、昼休みにでも取りかかることができたというのに。
彼氏とデートだという結衣羽にバイバイして、私は机に座り直して、課題であったプリントを取り出した。
しかも苦手な数学っていうのがもう……。
クラスメイトは今日は珍しく駄弁ることなく帰ったのか、数人しかいない。
その数人も、しばらくすればいなくなり、教室にはふたりとなった。
「なに、また居残り?」
そう、この男、佐野大志を除いて。
前の日誌を書いていたときと同様に、佐野大志は私の前の席に座ってきた。頬杖をついて私の様子を伺っている。
「……暇なんですか?」
「んー、べつに。あ、そこ、間違ってるよ」
「え!どこ⁉︎」
「ここ。ここはその公式じゃない」
佐野大志が公式の説明を始めて、私は何度も頷きながらそれを聞いた。
ふと顔をあげると、佐野大志のまつ毛がものすごく長いことに気がついて慌てて目線を再びプリントに向けた。
「……わかった?」
「う、うん……。ありがと……」