俺がこんなに好きなのは、お前だけ。
鼻で笑った佐野大志の顔は、なぜか傷ついたような顔をしていた。
私はなにも声をかけられずに「ごめん……」と一言謝った。
「いいよ。お前が謝んな」
「嫌な気持ちにさせたなら、謝らせてよ」
首を横に振った佐野大志が、口元から息をこぼすようにまた悲しく笑った。
「俺も。誰かを本気で好きになったことなんて、一度もないし……これからも、ない」
「……っ……」
目が合って、そらせずに唇を巻き込んで噛んだ。理由はわからないのだけど、私の胸が痛むのだ。
佐野大志も、もしかして私と同じなんじゃ……?
誰かを好きになったことがない私と、恋を信用していない佐野大志もまた、誰かを好きになったことがない……?
「俺、ほんと、お前のこと嫌いじゃないんだ。なぜか知らねえけど、素の自分を出せる唯一のクラスメイトだから……」
「うん……」
「だからさ、」
一呼吸おいて、再び佐野大志が口を開く。
「お前は、俺のこと好きになんなよ」
シャーペンを握る手に、力が入った。心臓とは違う、もっと奥、胸のなかに存在する異次元が、傷ついたような痛みとなにかがひび割れるような音が聞こえた。
なんだ、いまの……。
「な、ならないよ……! 安心して……っ」
「ははっ、そうか。なら、よかった」