俺がこんなに好きなのは、お前だけ。
一度は大嫌いと宣言してしまったのに、まるであのときの自分が嘘のように再反対の気持ちをいま抱えている。そのことが不思議でならない。
「今日は色々ありがとう」
「べつに」
「送ってくれて、ありがとう」
「ん」
短い返事。取り繕っていない、低い声。
いくら「ありがとう」を重ねても、足りない。
そして、あまり大志くんの顔をうまく見られない自分がいる。
「じゃあ、またな」
「うん。また明日」
再び自転車に跨った大志くん。行ってしまうんだと漠然と考えると、寂しさにあふれて胸がの奥が締めつけられる。
また明日も会えるのに。その次も、その次だって。同じ学校で、同じクラスなのに。
今日は色んなことがあった。あの手紙の犯人が身近にいて、いま考えても手が震えるぐらいだから。
乾いたはずの涙の跡が、すこしだけ風になびいてひび割れた感覚がした。
「……怖かったら」
「……?」
「いつでも連絡してきていいから」
クラスメイトと話すときとは違うのに、優しい声色。
本気で心配してくれているのが、目線から伝わってくる。
深く頷くと、すこしだけ笑って、大志くんは帰って行った。小さくなっていく背中を目で追って、にじむように心のなかに広がる淡いできたての感情を噛み締める。
はじまった、やっと、はじまった私の初恋。
──「お前は俺を好きになんな」
思い出されたセリフには目を閉じた。熱された心のなかにひとしずくの水滴が落とされたような、そんな感覚だった。