俺がこんなに好きなのは、お前だけ。
「……ま、まだ帰らないの?」
「ちょっと用事があって、まだ帰れないんだ」
「そうなんだ……」
何気に、ふたりで会話するのは、あの掃除のとき以来かも。そうなると3日ぶりだ。
なんだか緊張する……。
なんでクラスメイトと話すだけで緊張しなくちゃならないんだ……。
膝の上で手をまるめて力をこめた。対照的に大志くんはなにも気にしてないようなラフな仕草で「小田さんは、日誌まだ終わらないの?」と首を傾げている。
「うん、あとすこし」
「そっか。ひとりって大変だよね」
「んー、でもしょうがないよ」
体調不良なんて、コントロールできることじゃないし。
「俺になにかできることある?」
「えっ?」
大志くんがおもむろに席をひとつ移動して、私の前の席に座った。ガタンと音を控えめに立てて、近くなった距離。
アーモンド型の形のいい大志くんの目が私を捉えて、息がしづらくなる。
「えっとぉ……」
「遠慮なく言って」
合わせていた目線を、一度下げて考える。
手伝ってほしいことって、べつに、特にない。
だってあと日直の仕事って言ったらこの日誌書き上げて担任まで届けるだけだし。
「じゃ、じゃあ……」
「ん?」
「終わるまで、話し相手になってください……」
語尾になるにつれて、音量を小さくしてしまった。
なぜこんなことをお願いしてしまったのかは、よくわからない。
ただ、すこし。
得体の知れないこの優等生のことを、知りたいと、そう思ったのだ。