ヤルことからはじめよう
サクセスストーリー始動!
「お仕事お疲れ様です。小野寺さん大丈夫ですか? 死相が出てるみたい。目の下のクマが凄いことになってる」
「〆切直前の漫画家か、みたいな?」
きっと私と逢うために、無理して仕事をしてるんだろうな。
「あの……」
「ストップ! 俺は無理してませんから。出張先のホテルの枕が合わなくて、眠れなかっただけなんです。あと今日のデートのことを考えていたら、色々考えちゃって気がついたら朝でした」
にゃははと笑いながら視線を逸らして、気まずそうに左手で頭を掻く。
「それにこれから行く焼き鳥屋には、イケメン店長がいるんですよ。これぞまさに一石二鳥!」
「小野寺さん、寒い……」
私が苦笑いすると、悔しそうに顔を歪ませて外したかと呟く。
今回で4回目のデート。どこから仕入れたのか分からないけれど毎回、好きそうなお店に連れて行ってくれた。彼が提供する話題も私が激しく食いつくであろう鎌田先輩の話を中心に、常に明るく笑顔で話をする。
「亜理砂さんは、犬と猫どっちが好きですか?」
通りすがりのペットショップ。ショーウィンドーには可愛らしい小犬と小猫が数匹、こっちを見ていた。
「私は猫派です」
「俺は犬派なんです。特に小さい犬が好きなんですよ。ああやってつぶらな目で見られると、こうやって撫でたくなるんです」
優しい目をしながら言うなり、私の頭をワシャワシャと撫でる。雑に撫でられているのに指先から伝わる感じが繊細で、思わずドキッとした。
「ちょっと……。髪型が乱れるんだけどっ」
「おっと、すみません。今、直します」
小野寺さんは両手を使って、髪の毛を丁寧に鋤く。
「艶々で綺麗ですね」
「誉めても、何も出ないから」
憮然としてる私とは対照的に、にこやかな小野寺さん。自分のペースを乱されっぱなしで、何だかイライラした。本当にこの人は、女の扱いに慣れている。
要注意だと考えていたら突然、後方から肩を掴まれた。
「亜理砂ちゃん、見つけたぁ!」
そこには見知らぬ、ちょっと渋い二枚目がいた。
「亜理砂ちゃん酷いよ! ずっと連絡してるのに、完全無視を貫くんだもん。あちこち捜しまくったんだよ」
「ごめんなさい、誰だっけ?」
「忘れたのかよ。1ヶ月前にバーで盛り上がって、そのまま熱い夜を迎えた仲じゃないか」
そう言って、馴れなれしく私の肩に腕を回す。
1ヶ月前といったら前彼をフって、自己嫌悪に陥ってた時期にあたる。やけ酒をあおって、
たまたま隣にいたコイツと意気投合したような記憶は、うっすらあるのだけれど……。
「ところでその男、亜理砂ちゃんの何? 好みのイケメンじゃないよね?」
笑いながら、小野寺さんを見る。
私が文句を言おうとしたら回されていた腕を強引に振り払い、抱き寄せて腰に腕を回してきた小野寺さん。
「お兄さん、1ヶ月も連絡なかった時点で気がつこうよ。どんなにイケメンでも、アッチが駄目なんだってさ」
「なっ!?」
腰骨を左手人差し指であやしくなぞりながら、私の頭に顔を乗せてラブラブを勝手にアピールした。
「俺が毎晩、亜理砂のことをニャンニャン言わせてるんだから、お兄さんは用済みなんだよ」
さっき告げられた一石二鳥の言葉同様に、寒いセリフだと思わずにはいられない。それとも私が猫派だと言ったから、ニャンニャンなんていう言葉を使ったのかな。
「亜理砂ちゃん、どういうこと?」
必死な形相で訊ねてくる二枚目を見て、小野寺さんは私を庇うように背中に隠して仁王立ちをした。
「女々しいんだよアンタ。これ以上俺の亜理砂にしつこく付きまとうんなら、その長い足を俺の太くて短い足で蹴飛ばしてへし折るぜ。顔面から崩れ落ちて、イケメンが台無しになるけどな!」
ニヤリと口元に笑みを浮かべながら、ファイティングポーズを決める。そんな小野寺さんの背中を複雑な気持ちで見つめた。
「ちっ、変な奴」
捨て台詞を吐いて、来た道を戻って行く二枚目。
その後ろ姿を眺めて、ふーっとため息を一つつき、緊張を解く小野寺さん。
「もう大丈夫ですよ、怖かったでしょ?」
振り返るなり、いつもの笑顔で訊ねてきた。
「ほっとけば良かったのに……。私がしでかした不祥事なんだから」
「目の前で好きなコが困ってるのに、守らない男がいるなら見てみたいですね」
そう言って、包み込むように抱き締める。
「ちょっと!」
「さっきまで震えてたクセに、復活が早すぎる」
「離してよ……」
「ゴメン、今度は俺が震えてきた。あー、怖かった」
更に腕の力をこめて私を抱き締めながら、優しく頭を撫でてくれた。そんな小野寺さんの体に、そっと両腕を回す。
「……ありがと、ね」
今、自分はどんな顔をしているんだろう。
恥ずかしくて見られないように横を向いたら、小野寺さんのドキドキが耳に入ってきた。
「すげぇ、心臓の音……」
「なっ、私は別にドキドキなんかしてな――」
「俺のだよ、無駄にドキドキしてる。何か恥ずかしい」
両手をパッと上げて解放したので、反射的に私も腕を離した。
「無駄にドキドキしたら、一気に腹が減っちゃった。行こうか?」
そう言って、サクサク一人で前を歩き出す小野寺さん。その背中には、大きく(照)と書いてあるように見えた。
「〆切直前の漫画家か、みたいな?」
きっと私と逢うために、無理して仕事をしてるんだろうな。
「あの……」
「ストップ! 俺は無理してませんから。出張先のホテルの枕が合わなくて、眠れなかっただけなんです。あと今日のデートのことを考えていたら、色々考えちゃって気がついたら朝でした」
にゃははと笑いながら視線を逸らして、気まずそうに左手で頭を掻く。
「それにこれから行く焼き鳥屋には、イケメン店長がいるんですよ。これぞまさに一石二鳥!」
「小野寺さん、寒い……」
私が苦笑いすると、悔しそうに顔を歪ませて外したかと呟く。
今回で4回目のデート。どこから仕入れたのか分からないけれど毎回、好きそうなお店に連れて行ってくれた。彼が提供する話題も私が激しく食いつくであろう鎌田先輩の話を中心に、常に明るく笑顔で話をする。
「亜理砂さんは、犬と猫どっちが好きですか?」
通りすがりのペットショップ。ショーウィンドーには可愛らしい小犬と小猫が数匹、こっちを見ていた。
「私は猫派です」
「俺は犬派なんです。特に小さい犬が好きなんですよ。ああやってつぶらな目で見られると、こうやって撫でたくなるんです」
優しい目をしながら言うなり、私の頭をワシャワシャと撫でる。雑に撫でられているのに指先から伝わる感じが繊細で、思わずドキッとした。
「ちょっと……。髪型が乱れるんだけどっ」
「おっと、すみません。今、直します」
小野寺さんは両手を使って、髪の毛を丁寧に鋤く。
「艶々で綺麗ですね」
「誉めても、何も出ないから」
憮然としてる私とは対照的に、にこやかな小野寺さん。自分のペースを乱されっぱなしで、何だかイライラした。本当にこの人は、女の扱いに慣れている。
要注意だと考えていたら突然、後方から肩を掴まれた。
「亜理砂ちゃん、見つけたぁ!」
そこには見知らぬ、ちょっと渋い二枚目がいた。
「亜理砂ちゃん酷いよ! ずっと連絡してるのに、完全無視を貫くんだもん。あちこち捜しまくったんだよ」
「ごめんなさい、誰だっけ?」
「忘れたのかよ。1ヶ月前にバーで盛り上がって、そのまま熱い夜を迎えた仲じゃないか」
そう言って、馴れなれしく私の肩に腕を回す。
1ヶ月前といったら前彼をフって、自己嫌悪に陥ってた時期にあたる。やけ酒をあおって、
たまたま隣にいたコイツと意気投合したような記憶は、うっすらあるのだけれど……。
「ところでその男、亜理砂ちゃんの何? 好みのイケメンじゃないよね?」
笑いながら、小野寺さんを見る。
私が文句を言おうとしたら回されていた腕を強引に振り払い、抱き寄せて腰に腕を回してきた小野寺さん。
「お兄さん、1ヶ月も連絡なかった時点で気がつこうよ。どんなにイケメンでも、アッチが駄目なんだってさ」
「なっ!?」
腰骨を左手人差し指であやしくなぞりながら、私の頭に顔を乗せてラブラブを勝手にアピールした。
「俺が毎晩、亜理砂のことをニャンニャン言わせてるんだから、お兄さんは用済みなんだよ」
さっき告げられた一石二鳥の言葉同様に、寒いセリフだと思わずにはいられない。それとも私が猫派だと言ったから、ニャンニャンなんていう言葉を使ったのかな。
「亜理砂ちゃん、どういうこと?」
必死な形相で訊ねてくる二枚目を見て、小野寺さんは私を庇うように背中に隠して仁王立ちをした。
「女々しいんだよアンタ。これ以上俺の亜理砂にしつこく付きまとうんなら、その長い足を俺の太くて短い足で蹴飛ばしてへし折るぜ。顔面から崩れ落ちて、イケメンが台無しになるけどな!」
ニヤリと口元に笑みを浮かべながら、ファイティングポーズを決める。そんな小野寺さんの背中を複雑な気持ちで見つめた。
「ちっ、変な奴」
捨て台詞を吐いて、来た道を戻って行く二枚目。
その後ろ姿を眺めて、ふーっとため息を一つつき、緊張を解く小野寺さん。
「もう大丈夫ですよ、怖かったでしょ?」
振り返るなり、いつもの笑顔で訊ねてきた。
「ほっとけば良かったのに……。私がしでかした不祥事なんだから」
「目の前で好きなコが困ってるのに、守らない男がいるなら見てみたいですね」
そう言って、包み込むように抱き締める。
「ちょっと!」
「さっきまで震えてたクセに、復活が早すぎる」
「離してよ……」
「ゴメン、今度は俺が震えてきた。あー、怖かった」
更に腕の力をこめて私を抱き締めながら、優しく頭を撫でてくれた。そんな小野寺さんの体に、そっと両腕を回す。
「……ありがと、ね」
今、自分はどんな顔をしているんだろう。
恥ずかしくて見られないように横を向いたら、小野寺さんのドキドキが耳に入ってきた。
「すげぇ、心臓の音……」
「なっ、私は別にドキドキなんかしてな――」
「俺のだよ、無駄にドキドキしてる。何か恥ずかしい」
両手をパッと上げて解放したので、反射的に私も腕を離した。
「無駄にドキドキしたら、一気に腹が減っちゃった。行こうか?」
そう言って、サクサク一人で前を歩き出す小野寺さん。その背中には、大きく(照)と書いてあるように見えた。