恋ってやつを教えてやるよ。

兄妹みたいな存在で。


だから、幸が何をもってそんなことを言うのか、全くわけがわからない。



私の手の処置が終わったらしく、薬箱を片付けながら、幸がひとりごとのように言葉をこぼした。



「本当にバカなことかなぁ?」


「……ど、どういう意味?」



「人ってさ、すぐそばにある幸せほど気づきにくい生き物らしいよ」



……すぐそばにある幸せ……?




「美恋ちゃん。入るよ?」



ベッドスペースを囲うカーテンの向こうからそんな声が聞こえて、私は思わず肩を揺らす。



「高峰くん!」



遠慮がちな様子で顔を覗かせたのは、急いで駆けつけてくれたのか息を切らした高峰くん。



「よかった。気づいたんだね」



いつの間にカーテンの向こうにいたんだろう?


もしかして、さっきの話聞こえてたんじゃ……。



そんな私の心配とは裏腹に、高峰くんは心底心配そうな顔で私のすぐそばまでくると、壊れ物でも触るみたいに私の頭をなでた。



「少し、たんこぶになってる?」


「こ、このくらい、全然大丈夫!」


「手も、怪我してる」


「これはちょっと突き指しちゃったみたいで……」


「突き指……」
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