恋ってやつを教えてやるよ。
むしろ、私がどこかに気が逸れると『聞いてんのか!?』って怒ってたのに……。
グダグダと具体的に述べられる恋愛の素晴らしさなんかより、こっちの方がずっと気になって仕方なかった────。
そして、とある日の中休み。
「美恋ちゃん」
自販機で飲み物を買って、クラスに戻ってくると、ロッカーに背中を預けて立っている高峰くんに手招きされた。
「どうしたの?」
「見てアレ」
高峰くんの指差す方角に目を向けると、黒板の前にジロ……と茅野さんがいた。
何やらジロは、黒板を消していた茅野さんに後ろから近づき、茅野さんが届きそうにない上の方の文字を消してあげている。
背の高いジロの体で、茅野さんがスッポリ隠れて見えなくなった。
ジロを好きな子達が見たら、ハンカチを噛んで悔しがりそうな光景だ。
ほら。例の岡部さんとか。
「前は、女の子が困ってるのに気づくような男じゃなかったのにね」
高峰くんのその言葉にドキッとする。
「恋って、こんなにも人を変えるんだね」
黒板前のジロに、私はふたたび目を向けた。
ピンク色の頬をした茅野さんと、ジロは何やら楽しそうに話をしている。