恋ってやつを教えてやるよ。
どこかの家から夕飯のいい匂いが漂ってきて、思わず鼻をヒクつかせる。
いつもなら、ジロとこの匂いは何だあの匂いは何だって、夕飯当てゲームみたいなのをしながら帰るのに。
いつもはあっという間に家に着く道程が、今日はこの不穏な空気のせいですごく長く感じる。
ついには一言も喋らないまま、私の家の前に着いてしまった。
「じゃあな」
ジロはそれだけ言うと、私に背を向けて自分の自宅がある方へと歩き出す。
何それ!
何を怒ってるんだか知らないけど、気まずいままバイバイとか絶対嫌なんだけど!!
「ジロ!」
意外にもジロは一回の呼びかけで振り返った。
眉間のしわはそのまま。私は思わず「うっ」と狼狽えてしまう。
「何?」
「な、何じゃないでしょ!それはこっちのセリフだよ!さっきから、何怒ってるの!?」
「別に……。怒ってるわけじゃねぇ」
はぁぁ!?
この期に及んでしらばっくれるわけ!?
怒ってないなら何なんだその態度は!!
そう口を開きかけたところで、ジロは、私に向けていた視線を「ただ……」と言ってさまよわせた。
「ただ?」
「何か、しっくりこねぇ」