ブロンドの医者とニートな医者
「えー、これ、本当ですか?」
見たいというから見せたのに、玲奈の一言にはかなり怒りが吹き上がった。
「何が嘘って言いたいのよ」
「イギリスにもこんなイギリス人ってなかなかいませんよ。嘘としか思えない」
奏はすぐにスマホの画面を切り替えると、
「じゃあ、嘘だと思ってたら」
そして、バックの中に即しまう。
「え、本当に愛されてるんですか?」
玲奈のふざけたセリフに律子が制してくれると思ったが、黙って聞いている。どうやら同じことを考えているようだ。
「じゃ、愛されてないんじゃない。知らないよ。別に結婚したいとか一生いたいとか思ってないし」
「え、なんでそう思わないの?」
律子がようやく口を開いた。
「思わない? その、医者だとかイケメンだとかいうとこは置いといて」
「そこ、置いといていいんですか?」
玲奈は半分笑ったが、律子はそれには応じなかった。ただ、こちらの目をじっと見ている。
「……別に……」
「外国人だから、文化とかそういう違いがあるのかなあ……」
律子は誰ともなしに、つぶやいたが、玲奈がすぐに反応した。
「もちろんありますよ。ただうちの両親の場合は、母親が無宗教で全く気にしない人でしたから」
「宗教ねえ……」
律子が玲奈の言葉を考えている。
「ね、今度会わせてください!」
絶対嫌だと口を開きかけたが、律子が唐突にしかも真面目に語り掛けてくる。
「今愛子、24じゃん? 30までに結婚したいとか思わない?」
「……思う」
「でしょ。ほんと、すぐなんだって。私なんか、入社してからずっとそう思って頑張ってるけど……しかも、もう同期ってほとんど結婚してるから。後私入れて2人くらいだよ、残ってるの」
「……」
「そうなったらめちゃくちゃ焦ってくるし、27って賞味期限切れそうで怖い。だから今になって、なんで若いうちに結婚できる人としとかなかったんだろうって思う」
「私も最近彼氏と別れたんですけど、結婚しないだろうなって見切りつけたからですよ」
玲奈も、珍しくそれなりに大真面目に付け加えた。
「………」
「時間無駄になったら嫌でしょ」
時間……。
「彼氏から結婚したいとか言われて、それを断ったとかじゃないんですよね」
玲奈の不躾な質問に、素直に
「そうだけど」
と、答えると、間髪入れず、
「やめといた方がいいですよ、絶対遊ばれてる」。
しかし、さらに間をあけずに律子が、
「それは愛子じゃないと分かんないことだよ。あんたが決めない」
十分律子も決め切っている。
「まあ、一度会いませんか、みんなで。愛子さんが分かんないなら、私たちが判断しますから」
玲奈の言い切り口調に、既に反抗するのは面倒だ。
律子も拒否せず、
「……まあ、別に私はいいけど……」
なんて、乗ってくる。
なんでそんな会……。
「心配するような事じゃないとは思うけどね」
律子のそれは、到底本心だとは思えない。