アスカラール
「美都も本気になってよ。

本気で俺のことを好きになってよ」

そう言った彼の顔が近づいてきて、
「――ッ…」

唇が重なった。

その唇に抵抗することができない自分がいる。

重なった唇が離れたかと思ったら、
「――ッ…」

また重ねられた。

成孔のペースに呑み込まれてしまっているせいで、何もできない。

何度も重ねては離れる唇に、自分の意識がぼんやりとし始めているのがわかった。

「――美都…」

バタン!

成孔が美都の名前を呼んだその時、ドアを開けた大きな音が部屋に響いた。

ドタドタと、足音がこちらに向かってくる。

(――えっ、何…?)

成孔は何事なのかと言う顔をしている。

どうやら彼も何が起こったのか理解できていない様子だ。
< 105 / 218 >

この作品をシェア

pagetop