アスカラール
(成孔さんに恋をしている、か…)

父親にも兄にも、何より高崎にも、この気持ちは感じなかった。

仕事に手をつけることができないくらいにぼんやりとなったり、彼のことを思い出すと心臓がドキドキとして、彼の前に立ったらどうすればいいのかわからない。

数日前から抱えていた憂鬱が沙保と話したことによって、沙保に言われたことによって、自分の中で消えていることに気づいた。

「沙保ちゃん」

美都は沙保を呼んだ。

「私、成孔さんに自分の気持ちを伝えてみる」

そう宣言した美都に、
「うん、健闘を祈るわ。

まあ、結果はわかっているけど」

沙保は返事をした。

(それにしても、美都に恋をして、そのうえ熱烈なアプローチを仕掛けてくる物好きな男がこの世にいたとは…)

その“成孔さん”の顔をぜひとも見てみたいと、沙保は思った。
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