アスカラール
何かをしていると言う訳ではないけれど、こうして2人でいて雑談を交わしているだけでも充分によかった。

「美都」

成孔が美都の名前を呼んだ。

「はい」

美都が返事をしたら、
「隣に座ってよ」

成孔が言った。

「えっ?」

「何て言うか、距離を感じるんだ。

美都がこんなにも近くにいるはずなのに、すごく遠くに感じる」

そう言った成孔に、美都は躊躇った。

「美都」

名前を呼ばれたらどうしようもない。

美都は床のうえから成孔の隣に腰を下ろした。

「うん、近い」

成孔は満足そうに微笑むと、美都を抱きしめた。

「えっ、あの…」

いきなり抱きしめられて戸惑っている美都に、
「嫌?」

成孔がクスクスと笑いながら聞いてきた。
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