アスカラール
「ああ、あったあった」

その声が聞こえたので目玉だけ動かして視線を向けると、律はスマートフォンを手に取っていた。

どうやらデスクのうえに置いていたスマートフォンを忘れたので、それを取りにきたようだ。

「美都さん、もう遅いのに仕事をしているんですか?」

そう聞いてきた律に、
「どうしても今日中に片づけたい仕事があるんです」

美都は答えた。

質問にちゃんと答えたのに、律はそこから1歩も動こうとしなかった。

「忘れ物を取りにきたんじゃないんですか?」

その様子に美都が聞いたら、
「いえ、美都さんの仕事が終わるまで待ちます。

女1人を置いて帰るほど、僕は薄情じゃありませんから」

律が答えたかと思ったら、隣のデスクから椅子を引いた音が聞こえた。
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