アスカラール
その音に視線を向けると、律が隣に座っていた。

当然のことながら、この場には沙保もいなければ由真も高崎もいなかった。

つまり、自分の身を守ってくれる人は誰もいないと言うことである。

「もう少しで終わるし、戸締りもしないといけないから早く帰ってください」

そう言った美都に、
「いえ、待ちます」

律は言い返すと、カバンから文庫本を取り出した。

文庫本を読み始めたその姿に、彼に帰る気がないことを理解した。

(早いところ終わらせよう…)

美都は気づかれないように息を吐くと、パソコンの画面に向かってキーボードを動かした。

「美都さん」

律が名前を呼んできたけれど、美都はそれを無視した。

美都が自分に構ってくれないことを理解したのか、律は何もしようとしなかった。
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