アスカラール
「――美都さん…」

呟くように名前を呼んだ律の声を無視すると、美都はカバンを手に持って逃げるようにオフィスを後にした。

苦しい…。

胸が苦しくて仕方がない…。

ビルを後にすると、
「――ッ、ううっ…」

美都は両手で隠すように顔をおおって、その場に泣き崩れた。

好きな男の人以外とキスをしてしまった。

「――成孔、さん…」

成孔にあわせる顔がなかった。

(私はどうすればいいんだろう…?)

このような状況になったのは初めてなので、どうすればいいのかわからない。

何が正解で、何が不正解なのかわからない。

今は成孔以外の男に触れられたうえにキスをされてしまったから、彼の顔を見たくないと言う気持ちだけが胸の中にあった。
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