アスカラール
こちらへと向かってくる男に、美都は見覚えがあった。

(あの人、エレベーターで一緒になった人だ!)

ウェーブがかかっている短い黒髪と端正な顔立ちは、忘れることができなかった。

彼は元治の前に立つと、
「森坂さんですよね?」
と、聞いてきた。

「えっ?」

元治はそらしていた目をあげると、相手の顔を見つめた。

「俺ですよ、有栖川ですよ。

大学の時、ゼミで一緒だった有栖川成孔(アリスガワナルヨシ)ですよ」

自分を指差して、彼――有栖川成孔は言った。

「あ、ありすがわ…?」

そんな名前の知りあいが自分にいたかと思いながら、元治は記憶をたどった。

「お兄ちゃん、知りあいなの?」

兄の様子に美都は声をかけた。
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