アスカラール
(高崎さん、涙目だ…)

由真は心の中で呟いた。

(森坂さん、悪い人じゃないんだけどねぇ…)

のほほんとしている美都に、由真は心の底から高崎に同情したのだった。


同じ頃。

成孔はスマートフォンの画面を見つめていた。

「有栖川」

そんな彼に声をかけてきたのが、赤い眼鏡をかけた女だった。

ダークブラウンのストレートのセミロングに、メルヘンチックなデザインのワンピースに身を包んだその姿は、まるで人形みたいだ。

大学生とか20代前半だと年齢をごまかしても、誰も疑わないだろう。

「雑賀ちゃん、どうしたの?」

そう聞いてきた成孔に、彼女は呆れたと言うように息を吐いた。

彼女は雑賀真生(サイカマオ)、34歳だ。

有栖川成孔の秘書として働いている。
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