Black Cherry ~にゃんこな彼女は一筋縄では捕まらない~
「菜々子、早く乗れ!」
そう言って私の手を引き、エレベータに乗せる専務に
「おはようございます。それから専務、橋詰と呼んでください」
キリッと顔を上げて言った。
もう、色々手遅れな気がするけれども…
「んー、考えとく…」
それ、直す気無いですよね…。
私は呆れと、諦めと、色々感情がこんがらかって表情が無になっていくのを感じていた。
「え?菜々子、怒ってる?」
私の顔色を伺う専務の慌てぶりに、その後に付いてる三笠さんは堪えきれずにクスクス笑いだした。
皆降りていき、現在役員室と秘書室のある階へと到着した。
乗っているのは専務、三笠さん、私に沙苗である。
「あの、あの啓輔がスマートにもなれずにこんなに必死とか…、くっくっ!」
三笠さん、どうやら笑いのツボに入ってしまった模様。
思わずジト目で見てしまう。
「はぁ、よく笑った。今日からよろしくね、橋詰さん」
そう言って手を出されたので渋々握手を交わす。
何しろ三笠さんは秘書の先輩で、私はこの人から仕事を教わらなければならないからだ。
「よろしくお願いします。出来ればこの専務の手綱も握って操縦してください。これ止めてくれないと私、社内で針の筵ですから…」
あー、と今気づいたみたいな声を上げる三笠さん。
今朝だけでどれだけ社内女子を敵に回したか分からないのだから。
「三笠さん、私からも頼みますよ?」
沙苗の援護射撃も受けつつ、私たちは一旦秘書室へと足を向けた。