Black Cherry ~にゃんこな彼女は一筋縄では捕まらない~
そして、その間も専務は相変わらず私を下の名前で呼び社内でもプライベートと変わらぬ態度を取ってきていた。
秘書課ではそれが日常となり、今では微笑ましく見守られるだけである。
軽く苦言というか、意見を言えるのは仕事前から友人としての付き合いもある三笠さんくらいだ。
「啓輔、ちょっとは抑えないと橋詰さんは逃げる一方かもよ?」
うん、もう逃げ出したくて仕方ないよ?
仕事だから居るだけよ?
因みに週末は最近上手く雲隠れしている。
市立図書館って穴場よね!
元々インドア派だし、読書が好きなので最近の週末は早起きして専務から連絡が来る前に出掛けてしまう。
そうなってきて、やっと専務は避けられ逃げられている事に気づいたようで…。
今週に入ってから社内で橋詰さんと呼ぶようになり、社内女子社員の間ではやっと専務は私に飽きたと言う噂がまことしやかに流れて刺々しさが落ち着いてきた。
そんな平和になった社食で今日も時間が合った沙苗と食事をしていると
「相席良いかな?」
爽やかな笑顔と色気をまとった専務の登場に、私のこめかみがヒクヒクする。
「沖さん、橋詰さんすまない。そろそろもう俺でも止められそうにない」
そう疲れた顔をして言う三笠さん。
一週間が限界でしたか…。
いや、三笠さんは頑張って根気強く専務を諭してくれていた。