身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

 っ!
 聞かされた言葉に、ギュッと心臓が締め付けられる。

 どうして安易に行かせてしまったのかと、後悔とやるせなさに拳を握り締めた。

「だけど私、玄関先で頭を下げ続けました」

 俯いていたレーナが、目を涙で潤ませて顔を上げた。

「そうしたら、……っ、マッサージをさせてくれました!!」
「そうか!!」

「ブロードさんの、お陰です」

 レーナの肩が、小刻みに震えていた。前で握り締めた両手も、震えていた。
 だけど俺を真っ直ぐに見つめる瞳は、凛として揺らがない。

 この瞬間、俺にはレーナという存在が、とても清らかな奇跡のように思えた。
 美しい奇跡は、瞬きする一瞬の内に、俺の前から消えていってしまうのではないかと危ぶんだ。

 そんな思いに突き動かされ、衝動的にレーナを胸に抱き締めた。

「ブ、ブロードさん?」

 腕の中に抱き締めたレーナの背中は折れてしまいそうに華奢で儚げで、俺はレーナがこのまま消えてしまわぬよう、腕にギュッと力を篭めた。

 レーナの手が、僅かな逡巡の後に、キュッと俺の腕を掴む。伝わる小さな手の温もりに、胸が熱くなった。
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