身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

「……ブロードさん、こんな私ですが引き続きここに置いていただけますか?」

 俺の腕の中、レーナが囁く。

「当たり前だ! レーナの居場所が、ここでなくて何処だというんだ!?」

 声を大きくした俺に、レーナは大きく目を瞠り、ついでそっと瞼を伏せた。
 目を瞑った事で、レーナの眦からほろほろ、ほろほろと涙が雫となって頬を伝う。レーナの零す透明な雫があまりにも美しくて、俺は吸い寄せられるように眦に唇を寄せた。

「……ブロードさん」

 けれど俺の唇が触れる直前で瞼が開き、漆黒の睫毛の奥から濡れた瞳が現れる。俺は慌てて顔を引き、何食わぬふうを装って笑みの形を作る。

「ありがとうございます。私がこの世界にきたのは女神の気まぐれで、女神を恨んだ事もあります。だけどこの世界で一番初めにブロードさんに巡り合わせてくれた事は、感謝してもしきれません」

 俺の瞳を、レーナの漆黒の瞳が見つめていた。真摯な光を湛えた瞳は、見惚れるほどに美しかった。
 事実、俺はレーナの瞳に見惚れ、縫い付けられたようにレーナから視線を逸らせなかった。

「私を見つけてくれたのがブロードさんで良かった」

 花が綻ぶみたいにレーナが笑う。
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