身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
ヘンリーのお父様は屋敷に厩番として、住み込みで勤めている。使用人宿舎での住み込みは独身者か夫婦共に屋敷勤めをしている場合。けれど住み込みの侍女の中にヘンリーのお母様はいない。だから、ヘンリーが片親である事は知っていた。
けれどまさか、去年お母様が亡くなったばかりというのは知らなかった。
「術中死のリスクはもちろんあったけど、切断した方が生きられる可能性は高かったって、おじちゃんたち大人で話してた。あたしはね、何としてでもおばちゃんを説得すればよかったって後悔してる。おばちゃんが死んでから、ヘンリーはニコリとも笑わないんだ。人一人の命は重いよ。あたしは女で、お医者にはなれないけど、助手になって多くの人を助けたい」
……今ならば分かる。命の重みを知り、多くの人を助けたいと望む。
それこそが医師を志す大前提だ。私はその前提からして、歪に歪んでいた。
私にはそもそも、医師を志す資格すらなかったのだ。
「……ねぇユリーナ、女は医者になれないなんて、誰が決めたの?」
ユリーナのような志でこそ、人の生き死にに関わる医師を目指せる。ユリーナこそが、医師になるに相応しい。
「え?」
ユリーナは、キョトンとした顔で私を見上げた。