身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

「……ブロードさん、これまでの私は、脅迫概念みたいにこういうふうじゃなくちゃって、ずっと気負っていたように思います。……医師は、その筆頭でした。だけど今、私ははじめて自分の意思で未来へ踏み出したいって思うんです。そう思わせてくれたのはブロードさん、貴方です」

 見上げるブロードさんの紫の瞳。清く澄み切ったその瞳は、公正で寛大に物事を見通す。

 ずっと、父母を尊敬していた。父母以上に尊敬できる人には出会えないだろうと思っていた。

 だけどブロードさんとの出会いは、それらを根幹から塗り替える、運命の出会い。

 ……追いつきたい、そして隣に並びたい。

 ブロードさんと並び立ち、共に臨む世界。それはどんなにか眩い世界なのだろう。

「レーナなら、きっと素晴らしい教師になる。心から応援する」

 薄く涙で滲む視界に、ブロードさんの美貌が迫ったと思った。

 次の瞬間、ふんわりと額に柔らかな感触が落ちた。

 それは、ブロードさんからの祝福と後押しのキス。

 ほんの僅かな触れ合いは、けれど私の全身を熱くする。

「……ブロードさん、ありがとうございます。私、頑張ってみます」

 そこから屋敷までの道のりは、まるで熱に浮かされたようにふわふわとしていて、あまりよく覚えていない……。



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