身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
お礼を告げ、ストールも受け取って、やり取りはこれで終わりかと思われたのだが、男性は立ち去ろうしなかった。
私はあまりに近すぎる男性から距離を取るように、上体を引かせた。
「あぁ、失礼をいたしました。私は少々視力が弱いのです。こうやって近寄らなければ物がよく見えないので、つい日頃の習慣で、大変無作法をいたしました」
男性はハッと弾かれた様に顔を引くと、恐縮しきりで謝罪をした。
なるほど。視力が悪いと言われれば、距離を寄せたくなるのも納得出来た。
「いえ、こちらこそ過剰に反応してしまってすいませんでした」
とはいえ、初対面の男性とこれ以上会話を広げる事も憚られ、私はそそくさと席を立ちあがる。
「あの、それでは私はこれで失礼します……」
置いていた鞄を握り、私は男性にひとつ会釈をして踵を返した。
……けれど数歩進んだところ、背後の違和感で振り返る。
「あの? まだ何か?」
やはり、柔和な笑みを浮かべて男性が私の後に続いていた。不躾かもしれないが、こうも意図的に接触を図られては若干の不快感も湧き上がる。
「本当を言うと、私が今日ここに来た目的は貴方なのです。貴方を見る事が目的だったのですよ」