身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
一見では、静かな目。けれどその瞳の奥に、紅蓮の炎が立ち昇る。
私はその視線から逃げるように俯いて、固く拳を握る。握り合わせた指先は、小刻みに震えていた。
触れれば切れそうなくらい、張り詰めた緊張感が支配する。
「失礼いたします」
!!
沈黙を破ったのはザイードさんでも、私でもなかった。
給仕の男性が丁寧な所作で、ザイードさんの前に注文品を供す。次いで、私の前にもオレンジジュースのグラスが置かれた。
グラスの中、氷と氷がぶつかってカランと澄んだ音を立てた。
給仕の男性は提供を終えれば、スッとひとつ礼をして、すぐに立ち去った。
「レーナ、折角だから喉を潤そうじゃないか? いくらでも時間はあるんだ、ひと息ついてからゆっくり話そう」
ザイードさんは優美な手つきでカップを持ち上げると、そっと口元に寄せた。カップから立ち昇る湯気がゆらゆらとザイードさんの輪郭を揺らす。
カランッ。
私の前のグラスから、またひとつ涼やかな音が上がった。同時に、これまでピンと張り詰めていた緊張の糸が切れた。