身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
いつの間にアボットは、こんなにも強い目をするようになったのだろう。しっかりしていても、まだ十六歳の若さで、どこかで俺は軽く見てはいなかったろうか。
アボットの真摯な目に、返す言葉に窮した。
「……アボット、正義は尊い。けれど、圧倒的な力を前にした時、家族の暮らしを守る選択もまたひとつの正義だと俺は思う」
けれどなんとか、俺の思いを口にした。きっと、正義はひとつではない。
俺の言葉を耳にしてアボットは目を瞠り、次いでクシャリと笑った。
「俺、ブロード様だから側近になりました。俺の正義はやっぱりブロード様だ! ブロード様、俺は何言われたって揺らがないですよ」
胸を張ったアボットは、いつも通り茶目っ気たっぷりに笑う。だけどその目は、決意の篭った目をしていた。
「……アボット」
すっかり頼もしく成長を遂げた側近に、俺は頭を下げた。
「アボット、ありがとう。俺の側近はお前以外にいない。共にレーナを、救い出そう」
「はい! 任せて下さい!」
アボットは破顔して、力強く頷いた。
そんなアボットに、俺は救われる思いがしていた。
屋敷の者は衣食住を整えるための使用人で、軍人ではない。本音では、腕の立つアボットの協力は、この上無く有難いものだった。