身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

「それを黙っている約束で、幾ばくかの食料を渡されたんだな? 少女を抱き上げて消えた背の高い男というのがどんな風貌であったか、もう少し覚えていないか?」

 逸る心をなんとか抑え、努めて冷静に問いかける。

「金髪碧眼の美丈夫で、四十代くらいかな。一見すれば優し気だけど、その目は底冷えするような冷たさだった。恰好はすごく質素だったよ。でもね、僕には分かる。あの男はね、市井の人じゃない。どちらかというと、貴方たち貴族に近い。だけど、貴族とも決定的に何かが違う」

 俺の求める核心に切り込むような、少年の鋭い洞察力。

「……何故、そう思った?」
「何故? だって僕は、日がな一日人の観察をしてる。乞食も貴族も、それこそ通りを行き交う全員をだ。それが、その日一日を生き抜くための全てだもの。目も自然と肥えるってなものでしょう?」

 少年は、年齢に不釣り合いな達観した目で俺を見つめた。

「貴方のお姫様、魔王の手から無事に戻ってくるといいね?」

 少年はそう言って、薄く笑った。


< 173 / 263 >

この作品をシェア

pagetop