身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
今の状況下での呼び掛けは、恐怖でしかない。なにより私は、とてもじゃないが、声を発せられる状況ではなかった。
両手で喉元を抑え、何とか込み上げる吐き気を凌ぐ。苦しさから目には涙が滲んでいた。
「レーナ様、どうかなさいましたか? 紗を開けさせていただいてよろしいでしょうか?」
私が目覚めている事は衣擦れの音や、息遣いで伝わっているだろう。応答がない事を訝しみながらも、声の女性は許可なく天蓋を割る事を逡巡しているようだった。
なんとか襲う吐き気の波をやり過ごし、荒い呼吸を繰り返す。
その時、紗越しに控える女性達に、ざわめきが広がる。重く扉が開く音が聞こえ、何者かの入室があった事が知れた。
「其方ら、ここはよい。皆、出て行け」
ビクリと肩が揺れた。陛下と呼び掛けられた男性が発した声は、ザイードさ……いや、ザイード王の声だ!
カッ、カッ、っと大股で寝台に歩み寄る靴音に、全身が恐怖に戦慄く。
足音が、寝台のすぐ側で止まる。私は身を縮め、寝台の奥にずりずりと下がった。
バサッ!
天蓋の紗幕が割られ、そこから広い寝台の一端が沈む。同じ寝台の上に人が、それも男性が乗り上がってきた事は恐怖だった。