身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
「泣いていたのか?」
元々近かったザイード王の碧の双眸が、滲むくらい近づいた。私はギュっと目を瞑る。
っっ!!
目尻から瞼を、撫で上げられた!?
閉ざされた視界の中で、感覚は鋭敏に研ぎ澄まされる。……違う、今のは撫でられたんじゃない!!
ゾロリと肌を撫で上げる、いや、舐め上げられる感触に、体の芯から湧き上がる嫌悪で震えた。
「……ふむ。女神の涙も塩辛いんのだな」
「いっ、いや! いやぁっっ!! ブロードさん!! ブロードさんっ!!」
弾かれた様に、私はザイード王の胸に腕を突っ張って仰け反り、ブロードさんの名前を叫んでいた。
恐怖に支配された中、ブロードさんの姿だけが鮮やかに脳裏に浮かんでいた。
「ほう、私と寝台にありながらブロード将軍の名を呼ぶか?」
ザイード王は氷のような声音で呟いた。顎を掴むザイード王の手に力が篭る。恐慌状態にあって、ギリギリと食い込む指を痛いとは感じなかった。