身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

「……女神の真偽は、今はいい」

 水晶玉の瞳が、無機質に私を見つめる。薄ら寒さに、ゾクリと震えが走った。
 けれど次の瞬間、その瞳が不穏な光で輝く。

「レーナ、全ては私の心ひとつだ」

 もたらされたザイード王の答えは無情だった。

「! ど、どうすれば?」

 それでもブロードさんの窮地に、願わずにはいられなかった。

「どうすればブロードさんを許してもらえますか!?」
「私の隣に侍れ。常に私に微笑んで応じろ。そうして私に、逆らうな」

 !!
 首の後ろを掴まれて、グッと引き寄せられた。唇に触れる、弾力に富んだ柔らかな温度。

 ブロードさんの優しい微笑みが脳裏を過ぎる。

 ……ブロードさん!
 きつく瞼を瞑り視界を閉ざし、私はされるまま逆らわなかった。

 この瞬間、ありとあらゆる激情が巡る心に蓋をして、全ての感覚を遠ざけた。
 太腿の上、硬く握り締めた拳は、爪が手のひらに食い込んで、薄く血を滲ませていた。




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