身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
馬を繋ぎ、王宮正門に向かう途中で、王宮の使用人通用口を通りかかった。ちょうど通いの使用人の出勤時間に重なったようで、通用口は入城チェックを待つ行列が出来ていた。
「ねーえ? 昨日の一件、アレ大丈夫なのかしら?」
「そりゃ、大丈夫かと言われれば、かなりまずい感じだったわよ。帰国したら王に全て伝えてやる、ただじゃおかないって、息巻いて出ていかれたもの」
その脇を通り過ぎようかという時、女官達の会話の一端を耳にした。
「……まさかうちの国、怒ったブレンボ公国に、兵を差し向けられたりしないわよね?」
一体、何の話をしている?
漏れ聞こえる物騒な内容に、自然と眉間に皺が寄る。
「どうだか? まぁ、その時はその時よ。それよりも目下の大問題は、あと何日こうして出勤出来るかって事よ」
「どういう意味よ?」
「だって妃様方が実家に帰されてしまった以上、私達もお役御免で、もうじき解雇を言い渡されてしまうんじゃなぁい?」
妃らを、実家に返しただと!? 聞こえてくる予想だにしない内容に、アボットと顔を見合わせる。
しかしこれで、先ほどの「ブレンボ公国に、兵を差し向けられる」というのも合点がいった。
ザイード王の側妃の一人は、両国の融和政策の政略で嫁がいできたブレンボ国王の姪にあたる姫君だった。