身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
一旦通りを外れた俺達は、ひとまず木陰へと身を寄せた。
「……ブロード様、レーナはザイード王の妃にさせられちゃうの!? そもそも王妃様はじめ、二名の側妃様方を退去させるって、ザイード王は正気!? そんな事って、あっていいの!?」
すると泣きそうに顔を歪めたアボットが俺の腕を掴む。
長年連れ添った王妃をはじめとした妃ら全員に離縁と即日退去を申し渡しすなど、通常なら一笑に付すあり得ない事態だ。
なにより、政略で娶ったブレンボ公国の姫君を一方的に追い出すなど、正気の沙汰ではなかった。しかも昨今は、融和政策の一端で婚姻を結んだ十年前とは比較にならぬほど、両国の関係悪化が深刻化していた。
「……ザイード王ならば、やりかねん」
これを切欠に、一気に戦争になだれ込む可能性も十分にあり得た。
俺の腕を掴むアボットの手が、ブルブルと震えていた。
「そんなっ……」
俺もまた、震える拳を握っていた。