身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

「いや、……ここには寄らん」

 俺の胸に、苦い記憶が蘇る。
 ここは祖父の領地というだけではない。幼い俺が母と離れ、幼少期の殆どを過ごした場所でもあった。

「えー? そんなぁ」

 俺は公爵家の嫡子として生を受けている。しかし母が政略で嫁ぐ以前から、父公爵には妾がいた。

 結婚当初より、妾から母への嫌がらせは日常茶飯事であったそうだ。しかし嫡子となる俺を生んだ事で、嫌がらせは身の危険を感じるほどにまでエスカレートした。幼い俺を案じた母は、病気療養を名目に、幼少の俺を生家に預ける決断をした。

 そうして俺は将軍職を退いたばかりの祖父に養育される事となったのだが、祖父は大層厳しい人だった。祖母は既に他界しており、幼くして母と引き離された俺は、厳しい祖父の指導の元、毎日泣き暮らすように過ごしていた。

 将軍の地位は世襲ではない。だから俺の将軍という地位は、俺自身が培ってきた力によって手にしたもの。ならば、俺の今があるのは祖父の鍛錬の賜物と言っても過言ではない。

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