身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
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服従を言い渡されたのだと、絶望した。それでも生殺与奪の権はザイード王の手の中で、私に逆らう余地はない。
なにより、私が忍ぶ事でブロードさんの助けになれるなら、従うという選択肢以外なかった。
私は、私自身と他ならないブロードさんの命を繋ぐために全ての感情を殺し、全ての感覚を切り離した。
唇に触れる柔らかな感触も、頬を包む大きな手のひらの感触も、五感の全てを遮断した。
「……レーナ」
切なさを孕んだ声で名前を呼ばれても、私には一枚遮幕を隔てて遠く、耳が音として拾うだけ。心にはなんら響いてこない。
角度を変えながらザイード王が唇を合わせるのを、画面越しの映像でも眺めるように、ただ見ていた。
「レーナ、……嘘だ。先程の言葉は嘘だ……」
ザイード王の吐息が鼻先を掠める。そうしてもたらされた告白に、いつのまにか口付けが解かれていた事を知る。
眉根を寄せ、縋るような目でザイード王が私を見つめていた。