身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

 聞かなければよかったと、今更ながらに苦い後悔が胸に押し寄せた。けれど同時に、初対面の私に抱くにはいささか大きすぎる思いの丈は、虚構の女神への憧憬が多分に影響しているとも思えた。

「……ザイード王、長年の憧憬が星の女神を、しいては私という人間を美化しています。星の女神の皮を被った実体は、私という生きた人間です。もちろん甘く微笑むばかりじゃありません。悪態も付けば、不平不満だって声高に叫びます。なにより、攫われてきた状況で甘やかに囁けるほどお目出度い思考回路もしていません。だからザイード王、私が貴方に甘く囁く未来なんてありません」

 ザイード王は目をまん丸に見開いたと思ったら、次いでその目をスッと細くして微笑んだ。

 今の私の言葉に、微笑む要素など欠片もなかったはず。なのに何故、ザイード王は微笑むのか? 

「……不思議なものだ。レーナと話していると、かつてないほどに楽しい。これまで妃らと交わしてきた上滑りの会話とは違う。共に過ごす時間の密度がまるで違うのだ」

 おかしな事を言う。私には、政略と言えども夜毎体を重ね、子まで成した妃達との時間の方が余程に親密と思える。

「全てを投げうってでも、欲しいと思った。そうして全ての反対を押し切ってそれを成した今、私は間違っていなかったのだと確信している」


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