身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
侍女長は声と同様に、その人柄もとても優しい。
「いえ、皆というのは正しくありませんね。ここにおられた妃様方は同様の内容でございましたが、陛下ご自身は粗食でございます。まぁ陛下は、軍事畑の出でございますしね」
!!
「ザイード王が軍にいたんですか!?」
ザイード王の貴公子然とした佇まいからは、まるで想像出来なかった。
「左様でございます。陛下は王子でありながら成人と同時に入軍し、十年間勤めた後に王として立たれました。軍では一切の手心無しにご自身の努力と才覚でもって、大将にまで伸し上がったのは有名な話でございます。ですから巷では、いまだ陛下を武王と呼ぶものも多くおりますよ」
……意外だった。私には武王というのが、優雅なザイード王と一番遠いところにあるように思えた。
「行軍では補給が断たれ、草の根を噛んで凌いだ事もおありとか。その経験や、あるいは前王陛下への反骨もおありかもしれません。陛下は美食にも、その他一切の贅沢にも興じません」
前王への反骨? 語られた言葉の中で、この一節が妙に耳に残った。
「あの、」
「あらま、少々おしゃべりがすぎましたわ。私ごときが、安易に語る内容ではございませんでした」