身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

 堰切ったように涙が溢れ、私は嗚咽混じりにブロードさんの名前を繰り返しながら、その胸に縋って泣いた。

「レーナ!」

 絶対的な安心感が、私を包む。
 ブロードさんの温かな胸に抱かれていれば、不安や恐怖といった感情が昇華していく。代わりに五感の全てをブロードさんが支配して、ブロードさん以外の感覚が遠ざかる。

 ブロードさんの胸に顔を埋め、しばらくトクントクンと刻む鼓動を聞いていた。そうすればやがて私の嗚咽はやみ、速い呼吸は常の落ち着きを取り戻す。

「待たせてすまなかった……」

 僅かに抱き締める腕を緩くしたブロードさんが、私の耳元でゆっくりと告げる。
 苦し気なその声に、私は慌てて首を横に振る。

 だって、ブロードさんが謝るのはおかしい。こんなふうに助けに来てもらって、私の胸には喜び以外の感情なんて見つからない。

「……苦しい待遇に置かれたり、意に添わない事を強要されたりはしていないか?」

 長い溜めを置いてもたらされた問い掛けに、ブロードさんの胸に埋めていた顔を弾かれたように上げた。


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