身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
王妃様の言葉に、少年の、いや王太子様の顔がクシャリと歪む。
「ならば母さん、悪いけどその機会は私が断たせてもらうよ。父さんを失脚させて、私が王に立つ。ブレンボ公国の顔を立てる意味もある、母さんのためでも譲れないよ」
「譲らなくていいわ。私は王妃として王を支えたい訳じゃないの。私が支えるのは、ザイード。どんなに落ちぶれて惨めな姿になっても、私だけはザイードに寄り添うわ」
泥の付いた前掛けを身に付けた小柄な王妃様は、一見すれば吹けば飛ぶような儚げな佇まい。
けれど凛と言い切る王妃様からは、一本芯の通ったしなやかで強い愛情が滲み出ていた。
……あぁ、愛にはこんな形もあるのか。
きっと愛には数多の形があり、そのどれかひとつが正解というものじゃない……。
「そう、父さんの失脚後に関しては僕がどうこう言うつもりはないよ。母さんの好きにしたらいい……」
実際に王太子様が涙を零した訳じゃない。だけど私には王太子様が、泣いているように見えた。
「ザナンド、愚かな両親でごめんなさい。だけど貴方なら大丈夫。王の中の王に、貴方はなれる。ブロード将軍を臣下に定めたのでしょう? いい目の付け所だわ」
ここで王妃様は王太子様から視線を外し、悪戯な目を私達に向けた。そうしてその目を、私だけに向けた。