身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
「……ブロード様、レーナ様が無事に戻られて、本当にようございました」
風呂に向かうレーナの後ろ姿が見えなくなると、脇に控えていたチャールズが、しみじみと言った。
「チャールズ、お前にも心配を掛けたな」
「いいえ、レーナ様が無事に戻られて、使用人一同喜びに沸き立っております」
使用人らが涙ながらにレーナを出迎える様子を目にし、俺自身レーナがいかに屋敷中の皆に愛されているかを痛感していた。
聞けば、レーナは使用人の子供らに勉強を教えてやるばかりでなく、厨房に顔を出せば目新しい調理法を披露し、破棄を待つ茶殻や果実の皮を持っていっては侍女らが落ちないと嘆くシミ黄ばみを取り去ってみたりと、大層活躍しているのだという。
他にも侍女らから裁縫や童謡なんかを教わってみたりと、屋敷の者らと多く交流を持っているらしかった。
「今回の一件では皆にも随分と手を尽くしてもらった。チャールズ、来月の給金に謝礼をのせて支給するように手配を頼む」
「かしこまりました。ではブロード様も大立ち回りでお疲れでございましょう。夕食までごゆるりとお過ごしくださいませ」
……大立ち回りという言い回しに、変装しての潜入という実態が少々お粗末に思え、苦笑が漏れた。
「ああ、そうさせてもらおう」