身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
「分かっている。アボット、すまんが飯の前に一仕事頼まれてくれ。女神像の破損を牧師に報告してきてくれないか?」
「ちょっと嫌な役ではありますが、ま、側近の俺の仕事になりますよね……ってブロード様!?」
俺は片腕で女神様を抱いたまま、胸ポケットから小切手の束を取り出して、アボットに差し出した。
目の前に突き出された小切手に、アボットが声を上げた。
「新たな彫像の代金を、俺に請求するよう伝えて欲しい」
「ブロード様が弁済するんですか? だって別に、ブロード様が壊した訳じゃないし。そもそも、その子の事は伝えないんですか!?」
アボットはまさか、俺が弁済するとは思っていなかったようで目を丸くしていた。
「あぁ、誤って破損したとだけ伝えてくれ。この少女の事は、言わんでいい」
「ブロード様がそうおっしゃるなら、その通りにしますけど……。それじゃ彫像の代金、言い値で小切手を切っちゃっていいんですね?」
「ああ、構わん」
「……いってきます」
アボットは物言いたげな目をしていたけれど、不承不承に頷いて小切手を受け取った。
「すまんなアボット。合流はこの先の宿だ」
礼拝堂を出て愛馬の手綱を取りながら、教会裏手に向かうアボットに声を掛けた。
「はーい、後から行きます」
アボットはヒラヒラと手を振って答えた。
俺はいまだ眠りから目覚めぬ女神様を抱いたまま馬上に乗り上がると、ゆっくりと駆け出した。