身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
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アボットと二人ならば、宿で俺の身分を明かしたりはせず、一般客と同じ客室を取っている。
間違っても俺の名を明かし、事前予約も無しに貴賓室を空けさせる事などしない。けれど今回は一切の迷いなく、俺の名で無理を通した。
貴賓室に着くとすぐに、ふたつある寝室の内、広い主寝室に女神様を運んだ。意識のない女神様を寝台に寝かせ、涙の痕の残る頬をそっと拭う。
女神様は青白い頬をして、浅い呼吸を繰り返していた。
教会で対峙した時、女神様は己の現状を把握していないようだった。
もしかすれば女神様は、自身が貴き女神であるという事実すら、理解していないのではないだろうか。
不思議だった。女神様は、たしかに女神様なのだ。けれど実際に対峙する女神様は、どこか稚く心許ない。
幼い時分、圧倒的な存在感で俺の中に君臨し、敬愛と憧憬の対象であったはずの女神様が、ひどく頼りなく、守るべき存在のように感じた。