身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
そうして対外的な状況を加味すると、女神様の色彩は危うい。
身元を示せぬとなれば尚、疑惑の種にもなりかねないと思った。
黒髪と黒目の民は、ランドーラ王国にはいない。けれど隣国ブレンボ公国東部の山岳部族に黒に近い黒茶の髪と目を持つ民族がある。
彼らは戦闘能力に長け、傭兵稼業で身を立てる者が多い。いまだブレンボ公国との関係は表面上は、平静を保っている。
それでも女神様をブレンボ公国の民と思い、粗略に扱う者もあるかもしれん。
女神様の頬をそっと撫でる。
青白い顔をした細く華奢な女神様に、病床の母の姿が重なった。
嫋やかな母は、吹けば飛ぶような頼りない女性だった。
母は体もさることながら、心もとても繊細で、父に愛されない現実を受け入れる事が出来なかった。
事ある毎にそんな母の姿を目にしていたから、ずっと父を不実と思っていた。
けれど長じれば納得はできないながらも、父にも一定の理解は出来るようになった。
政略で母が嫁ぐ以前から、父は今の後妻と恋仲だった。それらを全て知りながら、押し切る形で結婚を推し進めたのは、母の生家。
父に淡い恋心を寄せていた母は知りながら、結婚すれば父の心も変わると信じて嫁いだ。