身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
もうずっと、予備校と自宅の往復しかしていない。日焼けを知らない真っ白な手の甲に、薄く血管が浮かぶ。
お洒落には縁がない、丸く短く整えられた爪。中指の先の一部分が硬くなっているのは、ずっとそこにペンを握っていたから。
だけどもう、日がな一日机に噛り付き、ペンを握って参考書と睨めっこをする日常は、戻って来ない。親の庇護下で、与えられる物を当たり前に享受して過ごした学生時代はもう、終わりを見たのだ。
それは他でない、私自身の浅はかな願いが、女神の気まぐれで叶えられた形。
嬉しいのか、悲しいのか……自分自身の感情なのに、心が迷子になってしまったようだった。
右も左も分からない世界で一人、生きていく事は不可能に近い。誰かしらの庇護が無ければ、私は明日の命を繋げない。
そこに計ったみたいなタイミングで差し伸べられた手があって……。もしかしてそこには、何某かの意思が介在するのだろうか。
神様は私にこの地で生きろと、そう言っているのだろうか。
……ならば神様は、なかなかに残酷だ。
感情が高ぶって、なかなか眠りは訪れないだろうと思った。けれど予想に反して、それからいくらもしない内、優しい眠りが訪れた。
眠りの世界へは、淡い金髪に輝石よりも美しい紫の目をした美丈夫が誘った。