身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
……だけどもしかすれば、日本にもこんな風景は、あったのだろうか?
私はきっと、これまでとても狭い日常の中に生きていた。二十年という年月のほとんどを都会のコンクリートと、稀に造り込まれた緑を眺めて過ごしてきた。
私は、私の世界を知らな過ぎた……。
しばらく眺めていれば、車窓から移ろう景色が田園風景から、段々と人が行き交う街のそれへと変わる。
石畳の中央通りは広く取られ、反対側から来る馬車とも余裕ですれ違う事が出来る。通りの両側には、多くの商店が軒を連ねており、その前をテールコートを着込んだ紳士や、ボンネットを被り、レースの付いた日傘を差した貴婦人が行きかう。
街自体が蜂蜜色のやさしい風景。
「なんて、綺麗な街」
無意識に、感嘆の呟きが零れ出た。
建物の壁は石と漆喰のハニーストーン。屋根瓦の天然スレートは綺麗なブルーグレー。
中等部でホームステイしたイングランドの街並みを彷彿とさせた。そこは特別自然景観地域に指定されており、電柱や電灯もないレトロな趣の街だった。
けれどやはりそこは現代。自転車や車もあれば、軒先にランタンを掛けている家庭もあった。
しかしここには、その全てが無かった。
ただ、文明から切り離された圧倒的な自然美がここにはあった。