身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
ブロードさんの背中にくっついて、施設中央の軍本舎に向かう。
軍施設は広大な敷地面積を誇っていた。軍施設の中央に建つのは堅剛な軍本舎で、医務室があるのもそこだ。
そして軍本舎から放射線状に、軍訓練場、武器保管庫、軍宿舎や厩舎へ繋がっており、これらが複合して軍施設と呼ばれていた。
整然とした軍本舎内を、キョロキョロと首を巡らせながら、ブロードさんに続いて進んだ。そうしてしばらく歩き、ブロードさんは薄汚れた扉の前で立ち止まった。
「え? ここですか」
一見では、とても医務室とは思えない。
「あぁ、少々ボロいがここで間違いない」
ブロードさんは苦笑して、言葉通りボロい扉を叩いた。
「クレイグス、邪魔するぞ」
ブロードさんが押せば、立て付けの悪い扉は、軋みを上げながら開いた。
しかし扉の隙間からおそるおそる覗き見た医務室の中は、予想に反して綺麗だった。狭い故、雑多と物がひしめいていたけれど埃っぽさはなく、清涼感のある香りがした。
「ブロード将軍かい? 儂ゃちょいと手が離せん、急病人でなけりゃ少し待っててくれんかの?」
衝立の奥からクレイグス医師の皺枯れた声が返った。
「急ぎではないから、患者の処置を優先してくれ」
医務室内はとても狭く、待合室などはなかった。
クレイグス医師の医務机と患者用の椅子が一脚。衝立で仕切られた奥、現在クレイグス医師が患者の処置をするベッドが一台。
そして壁中に設えられた棚に、ありとあらゆる瓶詰が所狭しと並ぶ。中身は全て乾燥させた薬草のようだった。
これが、医務室の全容だ。